連載第35回/シーアンカーの実用的利用法
一般的にモーターボートは、海上でエンジンを停止したり、中立にしたりすると、風や潮の影響を強く受けます。小さな風であっても方向性を失い、洗面器に浮かべたオモチャのアヒルのように、風下へ流されてしまうことがあります。
セーリングボートやウインドサーフィンのように、一定の角度で風を受けて船首を安定させることができないため、風が強くなるほどモーターボートは不安定になり、停止時のコントロールが難しくなります。
荒天時だけでなく、ダイビングやボトムフィッシングをしているときにも、同じような状況が起こります。通常のアンカーを打てない深さの海域では、シーアンカーを使用することで、ボートの姿勢を保持したり、流されるスピードを調整したりすることができます。
シーアンカーの基本原理
シーアンカーの原理はシンプルです。水中に抵抗のある傘状、またはパラシュート状の布を沈めることで、水の抵抗を利用し、ボートの流され方や向きを安定させます。
シーアンカーを適切な位置から流すことで、ボートの任意の部分を風上側に向けやすくなります。たとえば船首から流せば、船首を風上に向けて姿勢を保ちやすくなります。
ちなみに2人乗りディンギーなどでは、沈をした場合、ひとりが水中でシーアンカーのような役割を果たし、船首を風上に固定してからメインセールやマストを起こします。これはセーリングの基本的な考え方のひとつです。
モーターボート用シーアンカーの主な種類
モーターボートで使用するシーアンカーは、用途によって大きく2種類に分けられます。ひとつは荒天時に使用するストームシーアンカー、もうひとつはライトトローリングや流し釣りで使う小型のトローリングシーアンカーです。
ストームシーアンカーの使い方
荒天時に船首を風上へ向けるための装備
ストームシーアンカーは、嵐などの荒天状態で使用する大型のシーアンカーです。直径が2mから5m程度あるものもあり、船首から流すことで船首を風上へ向けて固定しやすくなります。
大きな風波が打ち寄せる状況では、船首を波に対して直角に近い角度で向けることにより、波を乗り越えやすくなります。横腹に波を受け続けるよりも船体姿勢を保ちやすく、転覆リスクの低減にもつながります。
反対に、シーアンカーを使用せずに横波を受ける状態が続くと、船体が大きく揺さぶられ、危険な状況になることがあります。特に荒天時には、船体をどの向きで風波に対して保持するかが重要です。
ストームシーアンカーは荒天時の安全装備としての役割が中心ですが、状況によってはトローリング時の流れ調整にも使用できます。ただし、サイズが大きいため、投入と回収には十分な注意が必要です。
トローリングシーアンカーの使い方
流し釣りやライトトローリングで姿勢を調整する
もうひとつのタイプが、ライトトローリング専用、または流し釣り向けに使われる小型のシーアンカーです。直径2m以下の比較的扱いやすいタイプが多く、釣りの場面で便利に使えます。
このサイズのシーアンカーは、荒天時の転覆防止を目的とするものではありません。そのため、必ずしも船首だけに取り付ける必要はなく、アイデア次第で風の受け方やボートの流れ方を調整できます。
たとえば、2つのシーアンカーを船首と船尾に取り付けることで、片舷側を風上に向け、複数の人が風下側へ向かってキャスティングしやすい姿勢を作ることもできます。
ただし、小型のトローリングシーアンカーは、ストーム時に使用するには小さすぎます。荒天時の船体安定や転覆防止を目的とする場合は、用途に合った大型のストームシーアンカーを選ぶ必要があります。
ブイの役割と回収時の注意点
ストーム用などの大型シーアンカーには、ブイが付属している場合があります。このブイは、シーアンカーの深度を調整したり、回収時にシーアンカーの頭を持ち上げたりするために使われます。
シーアンカーを回収するときは、水の抵抗をまともに受けると非常に重くなります。ブイを利用して傘の頭側を持ち上げることで、抵抗を減らし、回収しやすくすることができます。
一方、小型のトローリングシーアンカーでは、必ずしもブイが必要とは限りません。使用目的、サイズ、投入位置、回収方法に合わせて必要性を判断するとよいでしょう。
シーアンカー使用時の安全注意点
シーアンカーを使用するときに特に注意したいのは、展開したまま前進しないことです。シーアンカー本体やロープがプロペラに絡まると、ボートが動けなくなり、操船不能になるおそれがあります。
シーアンカーを投入する前には、ロープの長さ、結び先、投入方向、プロペラとの位置関係を確認してください。回収するときも、エンジンを不用意に前進に入れず、ロープや布地が完全に船上へ戻ったことを確認する必要があります。
シーアンカーは、荒天時の安全装備としてだけでなく、釣りやダイビング時の姿勢保持にも役立つ実用的なマリン用品です。用途に合ったサイズと種類を選び、正しい使い方を理解しておくことで、海上での安全性と快適性を高めることができます。
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